犬の分離不安症は犬に大きなストレスがかかります。愛犬が飼い主さんと離れても、ストレスなく心が落ち着いた状態でいられるようにしましょう。家に犬を迎え入れたときから家族全員で分離不安症にならないように心がけることも愛犬のためです。今回は犬の分離不安症とその治し方についてご紹介します。
犬の分離不安症とはどんな症状?
犬の分離不安症という心の状態をご存知ですか?分離不安症は、飼い主への依存心が強い犬に表れます。犬が飼い主と離れた際に、極度の不安を感じることでさまざまな問題行動を起こす状態の心の病気をいいます。具体的な例を出すと、「そわそわして落ち着かない」「吠えるまたは鳴き続ける」「トイレとは違う場所で排泄をする」「お留守番中に家の中のものを壊す、食べる」「脱走する」「同じ空間でも飼い主さんと少しの間も離れることができない」「パニックを起こして暴れ、動物病院の診察ができない」「失禁」「からだの震えが止まらない」「他の人の指示が耳に入らない」「固まって動かなくなる」などといった問題が起こります。
犬はもともと群れで暮らす動物なので単独行動を苦手とする犬が多いです。もしかして飼い主さんや家族がまた出かけてしまうかも、お留守番になってしまう、独りになってしまう。こう思ったときに犬は強く不安を感じます。犬の問題行動にはさまざまな原因がありますが、犬の分離不安症による異常な行動は、飼い主や家族と別れて30分以内に始まることが多いといわれています。
分離不安症は犬にとって大きなストレス
分離不安症は犬にとって大きなストレスとなります。飼い主さんと離れても気にせず寝ていられる犬は、お留守番の間ゆっくりと寝て休むことができますが、分離不安症の犬は、不安といつ飼い主さんが帰ってくるかと神経を尖らせて、少しの音にも敏感になります。不安から極度のストレスを感じて溜ったストレスからパニックを起こし、吠えたり、穴を掘ったり、破壊行動を起こすので、その間ゆっくりからだを休めることもできずに、ますますストレスがかかっていきます。この精神的なストレスによって、ストレスホルモンが分泌されて病気になったり、下痢や嘔吐などの胃腸障害、脱毛、手足を舐めたり噛んだりする、代謝異常、頻脈、異常な興奮といった目に見える症状も表れます。
愛犬にお留守番をさせて帰宅したら、家の中がめちゃくちゃになっていたら、人間もイライラして、ストレスから犬を怒ってしまうかもしれません。しかし、怒るのは逆効果、犬も大きなストレスを抱えていることを忘れないでください。人間は好きな時に外出することができ、多くの人と接して自由にコミュニケーションを取ることができます。犬は飼い主さんとお散歩に行くことで、仲間の犬たちとも会うことができます。犬には飼い主さんや家族しかいないのです。分離不安症は心の病気であることを飼い主さんが認識して、犬の不安をできるだけ取り除き、よい精神状態を取り戻すように心がけるべきです。
分離不安症の原因とは
分離不安の原因は、飼い主さんが原因の場合と、飼い主さんと離れている時の恐怖体験、環境の急激な変化によるストレス反応によるものが考えられます。これらのケースを詳しく解説していきます。
飼い主への依存が高い
飼い主さんにべったりの甘えん坊の犬にみられるケースです。飼い主への依存が高いと、犬は常に飼い主さんや家族が近くにいなければ、日常生活ができなくなってしまう場合もあるのです。犬は、飼い主さんがいつも近くに、必ずいてくれる状態が普通になっているため、飼い主さんが犬のそばを離れた時に、心のバランスを崩して分離不安症の症状が出ます。飼い主さんと愛犬だけでの生活、いつも抱っこしている、いつも犬とからだが触れている、飼い主さんがトイレに行くときもトイレのドアまで付いて来させるというような、犬との生活をしている家庭でみられるケースが多いです。
可愛すぎたり過剰にほめたりしすぎている
飼い主さんへの依存にも関わっていますが、愛犬を可愛がり過ぎたり、過剰に褒めたりすることも、犬を分離不安症にさせてしまう原因となります。例えば、いつも膝の上に犬を乗せている、常に犬のからだに触れている、どんな時でも片時と離さずに愛犬と一緒にいるケースは分離不安症になる犬が多いです。他にも、通常人間が普通に生活するトーンよりも遥かに高いトーンの口調で犬と接している場合は気がつかないうちに、分離不安症にさせている場合です。これは高いトーンの口調で常に犬を興奮させていることになります。犬は飼い主と過ごすときにハイテンションであることが当たり前になり、落ち着いた心でいられなくなってしまうのです。
特に犬と離れていて、再会したときに、「ごめんね〜」「ただいま〜」「いい子だったね〜」という異常な褒め方は、「飼い主さんとの再会」と「興奮」を反射的に強く結びつけてしまうのです。自分の愛犬が可愛いと思うのは、当然のことです。飼い主さんは愛犬が寂しがる様子を見ると、心が揺らいでしまうかもしれません。しかし、犬が心を穏やかに過ごさせてあげるのも飼い主の責任です。犬への過剰な反応や対応が当たり前にならないように、愛犬の飼い主依存が強くならないようにしましょう。
飼い主が留守中のトラウマ
お留守番の間に経験した何らかのトラウマも、突然の分離不安症を招く可能性があります。これらの原因は、独りで不安な精神状態とときに、近くに大きな雷が落ちた、ブレーカーが落ちて真っ暗になった、地震が発生した、大雨が降った、近所で工事をしていて大きな音がした、マンションの工事中に窓越しに知らない人を目撃して驚いた、近隣で花火大会があったなどの恐怖体験によるものです。飼い主がいない間の恐怖体験によって、お留守番中に吠えるようになった、雷が聞こえると失禁するようになったというケースもあります。
留守番中のトラウマをなくすには、雷雨が来そうな日は窓を閉める、マンションや自宅で工事をしている場合は外出時にカーテンを引いておく、部屋の静かな場所にサークルやケージを置いてお留守番をさせるといった方法がおすすめです。
怖がりな子である
性格的に怖がりな犬も分離不安症になりやすい傾向があります。もともと持って生まれた性格に加えて、子犬時代の社会化不足から、音や刺激に敏感な犬に成長した場合は、極度の怖がりな子になってしまうため、環境の変化にすぐに適応することができずに分離不安症になってしまうのです。神経質な傾向にある母犬が出産した場合、神経質な子犬が生まれやすいといわれるように、生まれつき繊細で怖がりな性格の要素を持って生まれてくる子犬もいます。
怖がっている犬に対して、どんどん怖がらせる経験をするのは逆効果です。このケースは、愛犬の性格を見極めて、子犬の場合はできるだけ早い時期から社会化を積極的に行い、徐々に環境に慣らせていく方法がおすすめです。引っ越しや飼い主が変わったといった急激な環境変化も、怖がりや敏感な犬はすぐに適応できずに極度のストレスとなるので、新しい生活に徐々に慣らしていくようにしましょう。
シニア期の子も発症しやすい
シニア期を迎えた犬や病気を抱える高齢犬も、分離不安症の症状がみられるケースがあります。高齢になった犬たちは、目が見にくくなり、耳も遠くなり、足の運びも思うようにいかなくなっていきます。高齢犬や病気になったシニア犬が急に分離不安症を引き起こすのは、周りの状況がわからなくなったり、寝ていて起きたときに家族の様子がわからなくなった場合に、急に極度の不安になり、遠吠えを始めたり、子犬時代に戻ったかのように、飼い主にべったりになってしまうのです。こういったケースでは、高齢犬は嗅覚が衰えにくいので、飼い主さんの匂いのついたタオルや洋服を、普段寝る場所や、日中過ごす場所に置いておくと安心して穏やかに過ごすことのできる犬が多いです。
あなたの愛犬は大丈夫?分離不安症のチェック項目
ここまで犬の分離不安の原因についてご紹介しましたが、あなたの愛犬は分離不安の気配はありませんか?簡単にチェックができるのでやってみて下さい。チェック項目をそれぞれみていきましょう。
不在時のおもらし
お留守番や、別の部屋に飼い主さんがいる間に、トイレを失敗しておしっこがはみ出ていたり、いつもと全く違うところでトイレをしていたり、何箇所にもおもらしがあるということはありませんか?愛犬が何らかの不安を抱えておもらしをしている可能性があります。いつもはきちんとできるのに、不在時だけ失敗するという場合は、分離不安を疑う必要があります。
過剰に吠える
愛犬が過剰に吠えるのも分離不安症の兆候があります。吠え方には、「ワン!ワン!」「クーン、クーン」「アォーン!」と、さまざまな吠え方があります。飼い主さんと離れることのストレスが原因で吠え続ける場合は、お留守番の前に犬を運動させて疲れさせて少し大人しく、落ち着かせてから外出することをおすすめします。
激しい破壊行動
飼い主さんがいないお留守番中に、家の中のものをめちゃくちゃに壊す行動も、ストレスからくる破壊行動です。愛犬は飼い主さんと離れたストレスを感じて破壊行動を行いますが、常習化にさせないためにも、素早い対処が必要となります。最近はwebカメラもあるので、犬の様子をチェックすることもできますが、犬が破壊行動を起こさないためには、ケージやサークルでお留守番をさせることです。
自傷行動
愛犬が自分の手足やお腹、陰部をしきりに舐める、噛んで毛をむしるといった行為は人間でいう自傷行動にあたります。例えば同じ手足を、飼い主が見えなくなったらずっと舐めている、噛んでいる、脱毛を起こしているという場合は、常に緊張や不安から手足に刺激がある「強迫神経症」という状態で、なめ続けることで皮膚炎や涙やけのような被毛の色の変色が起こります。
分離不安症の治し方
分離不安症は心の病気です。飼い主さんの対処で症状がおさまるケースもありますが、全く効果がないケースもあります。極度の分離不安症は犬のしつけを行うトレーナーや、犬の問題行動を専門とする獣医師への相談をおすすめします。薬物での治療が必要だと判断された場合、分離不安症のコントロールは、行動療法と薬物療法による、2つの治療を併用した方法が最も効果的であるといわれています。それではここからは具体的に分離不安の治し方についてご紹介していきます。
行動療法
行動療法とは人間が犬の行動や心理を予測してコントロールを行うことで、犬の異常な精神状態に変化を起こす治療方法です。犬の個体によっても、分離不安症の度合いが異なりますが、最も簡単な犬のコントロール方法に、「犬を構いすぎない」ということが挙げられます。飼い主さんが犬に意識を常に持っている状態は、言い換えれば犬にとって、飼い主さんにいつも見守られている状態です。これを、犬が自分で考え自立させることができるように、飼い主と犬の行動を矯正することで、犬の精神状態と行動に変化をつけます。
例えば、飼い主さんと愛犬が共に依存してしまっている、愛犬を甘やかせ過ぎている、愛犬への異常なテンションの取り方や興奮のさせ方、外出時や帰宅時に犬を興奮させるような声をかけてしまう、犬に恐怖を与える飼育方法、といった人間の行動を矯正していきます。
上記に加えて、犬の基本的な服従トレーニングで指示に従うように飼い主さんと犬の関係性を構築する。お留守番の前にしっかりと運動させてから外出する。お留守番中にテレビやラジオ、CDをかけて万一雷が鳴っても意識が雷に集中しないようにする。犬がお留守番の際に過ごすベッドに飼い主さんの匂いのついたタオルを置いておく。外出すると思わせて30分程別の部屋で過ごしてから犬を無視して部屋に入る。飼い主さんが出かける30分前と、帰宅後30分は犬を無視して構わない。帰宅後は犬とコミュニケーションを取らずに、スーッと別の部屋に入って、落ち着いたら犬のいる部屋に入り犬を興奮させない。なるべく落ち着いたトーンで犬に指示を出す。犬のお留守番中に、破壊行動や、排泄の失敗、失禁があったとしても絶対に怒らないで無視して掃除する。これらの行動療法で犬の心を穏やかにさせて問題行動を矯正していきます。最初は犬が興味を引こうと、おもちゃを持ってきたり、顔を舐める、悲しい声で鳴く、余計に吠える、排泄の失敗をしたりと抵抗をみせるかもしれません。犬の行動に惑わされず、犬のためだと心を鬼にして家族全員で取り組むことが大切です。
薬物療法
薬物療法は、医師の指示のもとに従ってきちんと治療を進めましょう。行動療法に加えて塩酸クロミプラミンを含むクロミカルムやアナフラニールという精神安定剤を使用することで、パニックを起こさないようにコントロールを行います。薬物療法は主に、犬の脳の神経伝達物質であるセロトニンが極度の不安や恐怖によって不足しないようにすることです。薬物を使用すると分離不安症が治るという訳ではなく、行動療法との併用で犬の分離不安症による症状の軽減を目指していくものです。
精神安定剤を使用した分離不安症の治療では、稀に嘔吐、眠気、食欲不振、ふらつくといった薬の副作用もみられる場合があります。外出時は精神安定剤を飲ませておけば家の中の破壊行動をしない、吠えないという安易な考えはやめましょう。分離不安症の治療は、決して薬任せでもトレーナー任せでもありません。犬の心の傷やトラウマを飼い主さんが一緒に寄り添って治療をすることが必要なのです。
治療期間はどのくらい?
分離不安症の治療期間は、犬の個体によって症状にも差があるため、一概にいうことができませんが、一般的には、1ヶ月から3ヶ月程度でなんらかの変化がみられるでしょう。半年や1年以上がかかって徐々に前に進んで行く犬もいます。期間にとらわれて結果を出すことに執着せず、犬のペースをみながら、飼い主さんや家族がこれまでの飼育方法の反省点をチェックして、同じ目標を立て、犬のために継続して治療を行いましょう。人間の突然の行動の変化に犬は戸惑い、パニックを起こして最初は混乱するかもしれません。しかし諦めず継続し、コミュニケーションを取る部分はしっかり取り、一緒に遊び、甘やかさない場面では徹底した態度を続けることで、目に見えた効果を実感できる日が来るはずです。
日頃から行える予防法を知って愛犬の不安を解消してあげましょう
愛犬が重度の分離不安症にならないためにも、日頃からできる予防方法をチェックして、愛犬の不安やストレスを解消してあげましょう。ここからは、分離不安にさせない犬との日常での接し方をご紹介していきます。
愛犬と適度な距離感を保つことを心がけましょう
愛犬が可愛過ぎていつも一緒にいたい、犬は家族の一員で、愛情をいっぱいに注ぎたいという飼い主さんの気持ちはわかります。しかし、愛犬が飼い主さんに依存してしまったら、飼い主さんが不在のとき、どうしても一緒にいることができないときに愛犬にあるのは不安だけで心のバランスを取ることができなくなってしまいます。飼い主さんに依存しないようにするためには、愛犬と適切な距離感を保って生活することが、愛犬のためにもなるのです。
親心は理解できますが、適度な距離感を保ち、愛犬が自立して生活をさせるように導いてあげることも、飼い主としての責任なのではないでしょうか?
愛犬への行き過ぎたコミュニケーションはやめましょう
犬の要求通りに行動する、ずっと膝の上に犬を乗せて撫でている、抱っこをする、食事を一緒に食べる、トイレやお風呂まで犬を連れて過ごす、といった愛犬への過度なコミュニケーションは、犬の分離不安症を引き起こす原因です。犬はそれが習慣となり、飼い主さんといつも一緒に行動をすることが当たり前として心のバランスを取っています。犬の飼い方、犬と一緒に暮らす生活として適しているかどうか、異常な愛情を注いでしまっているのかを飼い主さんがしっかりと自覚することが必要です。
愛情の他にも、すべての行動に対して犬に指示を出して、犬をコントロールしている場合は、犬が指示をもらわない場合にどうすればよいのかわからず不安になり分離不安症を起こすことも考えられます。可愛がりすぎることもコントロールで常に支配していることも極端なコミュニケーションの例ですが、犬が飼い主に依存せず自立して考え、リラックスできる時間を与えてあげることも犬のメンタルには必要不可欠なものです。適度なコミュニケーションを行い犬との信頼関係を築くことが大切になります。
まとめ
犬の分離不安症は、すぐに治るとは限りません。愛犬が、どんな場面で不安を感じているのか、分離不安症の症状なのかをチェックして、行動療法や日常の生活に変化をつけること、場合によっては薬物療法を併用しながら治療を行います。愛犬にとって飼い主さんが離れることで不安を感じてしまう生活よりも、安心して飼い主さんを待っていられる生活の方が犬にストレスがかかりません。愛犬を家に迎え入れた日から、飼い主や家族に依存しないような生活を行うことで、犬が精神的に自由な生活を送ることができるのです。犬の分離不安症は飼い主さんが理由のことが大半ですが、分離不安症になってしまった愛犬のことで困るのは結局は飼い主さんです。人間にとっても犬にとってもストレスフリーな生活を目指していきましょう。
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